第53回 脳を守る会 市民健康講座(2025年10月11日 開催)
テーマ:「意識障害」―知っておくべき意識障害の話―
主催:医療法人社団 孝尋会 上田脳神経外科
会場:上田脳神経外科 3階会議室
今回は「意識障害」をテーマに、2つの特別講演が行われました。
ひとつは、遷延性意識障害の家族として在宅介護を続ける谷口正春さん。
もうひとつは、救急医療の現場で意識障害の診療にあたる上田孝先生。
それぞれの立場から「意識」と「いのち」に向き合う姿勢が語られました。
特別講演1:「我が家の在宅介護の実態/家族会の抱える課題」
講師:谷口正春さん(遷延性意識障害者・家族の会 九州「つくし」代表)
今回の講演では、遷延性意識障害(いわゆる“意識が戻らない状態”)の家族として、
17年以上にわたりご自宅で介護を続けてこられた谷口さんが、
在宅介護の現実とそこにある家族の思いを語ってくださいました。
奥様がくも膜下出血で倒れられてから、自宅での介護を支えてきた日々。
医療的ケアやリハビリ、ヘルパーとの連携、そして「家族が支え合うことの大切さ」。
現場の具体的な工夫や、介護者として感じる喜び・苦労がリアルに伝わりました。
また、全国の家族会で取り組んでいる課題――
意識障害者への福祉制度の拡充、リハビリ時間の制限、介護施設や支援体制の不足など――
社会全体で考えるべきテーマについてもお話しいただきました。
「家族だけでは支えきれない。社会全体で支える仕組みが必要です。」
谷口さんのこの言葉が、会場の多くの方の心に深く響きました。
特別講演2:「意識障害プロトコール・急性期の対応」
講師:上田孝 先生(上田脳神経外科 院長)
意識障害は、いつ、どこで、誰にでも起こり得る重大な状態です。
上田先生の講演では、救急現場や病院での豊富な経験をもとに、
「いち早く異変に気づき、命を守るためにできること」をわかりやすく解説されました。
実際の救急搬送症例を交えながら、
「熱中症と思っていたら脳梗塞だった」「胸の痛みがない大動脈解離」など、
意識障害の原因が“脳以外”に潜んでいるケースも紹介。
先入観にとらわれず、全身を観察する重要性が語られました。
「意識障害、いつも脳とは限らない」――この言葉の通り、
上田先生は地域の救急医療の現場で培った知識と判断力を、
一般の方にも理解できるように丁寧に伝えられました。
もしもの時に「慌てず、順序よく」対応できる知識として、
参加者にとって大変心強い内容となりました。